そんなわけで私とマーガレットはテラスから移動し、私の花屋の入り口に移動する。
マーガレットをよく見ると、真上の看板をじっと見つめているではないか。
その木目模様の看板には、『エターナル』と紫色のペンキで描かれていた。
そこから少し視線を斜めに傾けると、この木造りの建物が二階建てであることが理解出来る。
(そう見ての通り、一階は花屋。二階が私の住まいなんだよね)
そんな事を考えながら空を見上げると、太陽が真上で眩しく輝いており、丁度お昼の時間になっていることが分かる。
私は木製のドアノブに手をあて、「私の花屋エターナルへ、ようこそ!」と彼女を建物の中に招き入れる。
「うん、ありがとうお姉ちゃん!」
部屋の中に入ったその瞬間、爽快な香りがふわっと立ち込める。
「うわあ……。リフレッシュできるいい香り!」
それは入り口に置いてあったハーブの香りであった。
「そうね、お客様にはリラックスしてもらわないといけないからね!」
そう、これは私なりのちょっとしたこだわりと気遣い。
「うん、ありがとう。今日も色々見させてね、レイシャ!」
「はいはい、聞きたいことがあったら遠慮なく言ってね!」
マーガレットは「はーい!」と、元気よく小走りし、室内に置いてある植物を物色していく。
その様子はまるでリスなどの小動物に類似しており、その可愛らしさに思わず私の頬はにやけ緩んでしまう。
「ね、このおへや、太陽の光がいっぱいであったかいね!」
「そうね、光が沢山入るように窓口を長くしてるからかな?」
実はそれだけではなく、魔石を使ったマジックアイテムで各小部屋ごとに植物に最適な温度調整を加えていたりする。
(そう、マジックアイテムは凄い便利なアイテムなんだよね)
あ、そうそう! 話は変わるんだけど、「私が何故花屋をしてるのか?」というと、「趣味と実益そして、今までの経験を兼ねてやりたかった事」だから!
それにね……。
「う、うわあ……。何これ綺麗……!」
マーガレットが感嘆を漏らして見ている物。
それは『真紅に淡く光輝く、子供の握りこぶし大ほどある大きさの結晶のような花』であった。
そう、この魔石で出来た花弁は通称『ブリガンレイン』と呼ばれ、不思議な事にその花弁らも全て真紅の魔石で出来ていた。
この『ブリガンレイン』は世界でも希少な奇跡のマナの結晶体でもあり、私の主な収入源になっていたりする。
私がここブリガンに流れ着いた数年後のある日。
今住んでいる場所の割と近くで偶然発見できたのだ。
(深夜に光り輝くそれを偶然発見した時は、目を疑ったわ……。昔いた組織ですら、『魔石の花』とか眉唾ものだったしね)
で、この稀有な花はここブリガンでしか生息出来ない代物らしく、「この世界の消えた神々に関係している」んだとか、「火山地帯だから」だとか、色んな諸説が流れている。
が、その理由については残念ながらまだ解明されていないのである。
「ねえねえ、お姉ちゃん! この花おいくら?」
無垢な瞳を輝かせ、私の顔をひょいと覗き込むマーガレット。
「う、うーん、そうね……?」
(流石にそれ一つで、今建っているこの花屋が数十件くらいは余裕で買えるとか言えないし……。けれど、実はこの花を見つけれたのは彼女のお陰でもあったしね……)
というのも、マーガレットの母親が亡くなったその日、私が彼女の母親を助けられず嘆いていた帰宅途中に偶然発見したものだったからだ。
しかも、此処に漂流した私を極寒の海から救い出してくれたのは漁師だったマーガレットの父親なのだ。
「……ねえ、マーガレット? ……その花欲しい?」
「うん!」
間髪入れず、元気よく頷くマーガレット。
(うん、どうやら彼女の決心は固いようだし、なら仕方ないか……)
「じゃ、それあげるわ! 私からのシスターへの誕生日プレゼントということでね!」
「え? いいの⁈」
「いいのよ! でね、後日その花を持って私の所に来るように!」
(じゃないとアクセサリーとして加工出来ないからね)
「わーい、ありがとうお姉ちゃん! 大好き!」
嬉しかったのか、彼女は私の足元に抱き着いてきますが……。
「……ンメェー!」
外から何かを訴えるような悲痛な鳴き声が聴こえてきた。
「あ、いけない! モコのことすっかり忘れてた!」
マーガレットは外のテラスに向かって元気よく走って行き、私もそれに習う。
ちなみに『モコ』とは彼女が世話している可愛い子羊のことだ。
ちょいと話がそれるんだけど、実はここブリガンで羊毛は冬着の材料になるため必需品となっていたりする。
(だからマーガレットのいる孤児院では実益を兼ねて羊を飼っているんだよね)
なおその他の用途に、乳、肉ラム・マトン、それを加工したチーズなどがある。
またまた話は逸れますが、私は柔らかくクセの無いラム肉の串焼きが好物なんですよね。
(けど、マーガレットの前ではその話は当然禁句だし、内緒!)
モコはそんな私の考えを知らずに、すっかりテラス周辺の雑草を食べつくし、ご満悦な表情をしている。
これには私も思わずニッコリ!
「モコえらいえらい!」
(うん、確かにえらいえらい!)
マーガレットはモコのモコモコした柔らかそうな体毛を両腕で撫で繰り回す。
「ンンメェー!」
モコはその愛情を感じて取っているのか、私には何だかとても嬉しそうに見えてしまう。
だからか私も、ついつられてモコの体毛を撫でまわしてしまう。
(うわあ……。もこサラで、とってもふわっふわっで、それになんて温かい……)
この温かい日差しの中、この魅力的な感触になんだかほわほわしてしまう私でした。
そんなこんなで、しばらく私達はモフモフタイムを満喫し、バケットに入っている料理を一緒にご馳走になることにした。
暫くして、二人でテラスにある椅子に座り、白丸のテーブルにバケットを置く。
中を開くと、なんと中身はふわふわのサンドイッチ!
(うーん、これはとても美味しそう!)
駆け足で2階に上がり、取ってきた蜂蜜レモン水ととても相性が良さそうである。
私達は「いただきまーす!」の掛け声と共に、そのサンドイッチを元気よく口に入れる。
……柔らかいふわふわとしたパンの食感。
それに合わせるように魚のふわふわとした食感と噛むとホロホロと崩れ、ホワイトソースの甘い風味が口の中に広がるこの感じ……。
(これは、タラのホイル焼きだ!)
「美味しーい!」
「ね!」
「メェー!」
私達はその上手さに思わず夢中でサンドイッチを食べていく。
(流石シスターリン、料理がお上手みんなのお母さんだ……。それに白ワインととってもあいそう)
けど、流石にお昼だし、マーガレットもいるので私はそれを断念した。
で、あまりの美味しさに私達はあっという間に料理を平らげてしまい、食後にスコッティー島名産の本場の紅茶とクッキーを食べながら楽しくおしゃべりをし、スローライフを満喫していくのでした。
「あ、ところでシスターリンは、明日でいくつになるんだっけ?」
「んー……20歳!」
「メェー!」
「……まだ若いわねえ……」
「うん! リンおねえちゃんはもてるからねえ……。 多分明日も村の男の人達がプレゼントを沢山持ってくるよ」
(ま、まあ、料理も上手いし、気が利くし、器量も良しだしねえ……)
「あらー……。シスターはそろそろ身を固める気はないのかしら?」
「んー……。リンおねえちゃんは相変わらず、『この身は神に捧げます』の一点張りなんだよねー」
「メェー!」
私はマーガレットの言葉に苦笑しながら、紅茶を口元にそっと運ぶ。
「……頑固ねー」
「そうだねー……。でも、私達としてはそうなったら、お母さんが取られるみたいな気がして複雑なんだよね」
「……メェー……」
マーガレットはその複雑な気持ちをぶつけるかのごとく、サクサクと音をたて、クッキーを食べていく。
(まあ、それもそうよねえ……)
「で、レイシャおねえちゃんは?」
ニシシと笑い意地悪な顔で私を見つめるマーガレット。
(くっ、痛いところをついて来る。というかね、思考がおませさんすぎ……)
かくなる上は……。
「……め、めえー?」
私は目を細め、迫真の物まねをする。
「!こ、こらー、モコの真似して誤魔化そうたって、駄目だからねっ!」
「メッメエエエエー!」
2人いや、一人と一匹から抗議を受ける私。
(うう、許されなかったようだ……)
「わっ、私は……」
私は胸に付けているペンダントに目を向け、それをそっと握りしめる……。
(私はあの日彼と決別したんだけど……。でも、まだ気持ちは……まだ……)
私のその様子を見て、何かを察したマーガレットは静かに紅茶を飲む……。
「……大丈夫レイシャおねえちゃんなら、きっといい人が見つかるよ」
「メェー!」
ドヤ顔した五歳児と子羊に慰なぐさめられる私……。
(うう、複雑な気分……)
……そんなこんなで、しばらくして。
「じゃーねー、お花ありがとー! また来るねー」
「ンメェ――――――!」
ぶんぶんと元気よく手を振り、子羊のモコと共に元気よく本島の教会へ帰っていくマーガレット。
「ふふ、またね!」
私も元気な彼女につられて、思わず手を振ってしまう。
往復船に乗った彼女達が見えなくなるまで、私は手を振り続けた。
そう、蒸気船の煙が見えなくなるまで……。
【紫色のヘリオトロープ】は私が昔所属していた怪盗組織【エターナルアザー】が怪盗予告に必ず使う贈り物の花だったのだ!(うーん、これは非常にまずいことになったなあ……) 回廊にて、立ち尽くした私は思わず海より深いため息をついてしまう。(こうしてはいられない!)「あの【紫色のヘリオトロープ】、間違いないわ!」「ふむ、確かヘリオトロープの花言葉は渾身的な愛じゃったかの?」 私達は時間が惜しいため最低限の会話をしながら、回廊を駆け足で進み、目的である騎士団長の部屋まで向かっていく。「そう、贈り物としては別におかしくはないんだけど」「成程、裏言葉か……。えっと確か、夢中とか熱望の意味じゃったかな……」 そう、小次狼さんの言う通り花言葉には裏言葉もあるのだ。「……今気が付いたんじゃが、あの花の色嬢ちゃんの髪の色にそっくりじゃがたまたまかの?」「えっ! うん、そうじゃないかな?」 小次狼さんの鋭い指摘に少し狼狽える私。 そのせいか、私の走っているスピードが少し上がったのが自身でも分る。「……儂は怪盗組織【エターナルアザー】の内部は詳しくはないが、遥か大昔は怪盗予告は出してなかったと聞くが……はて?」 その私に追いつくように、私の顔を覗き込みながら駆け足のスピードを上げる小次狼さん。「……す、すいません。あの怪盗予告、私が幹部になって作ったルールなんです……」「そうか、逆算すると丁度100年前くらいからじゃったし、そんな感じがしたんじゃよな」 目を泳がせながら、しどろもどろに話す私に対し、小次狼さんは腹を抱え豪快に大爆笑していた。(この感じ、やはりバレてましたか……) そう、組織の幹部試験を無事? 通過した私はほど
……しばらく会話して分かった事がある。 第一王子のラデーニはこのイッカ国の正式な跡取りで、絵に描いたような若き王であるという事。 IQ・EQ等能力などは他の世界の王と比較すると、平均よりちょい上と言ったとこだろう。 性格は温和そうではあるんで、国の民視点としては安泰といったところか。 対して王妃はずっと黙っているので情報はくみ取れず、性格等正直よく分からない。(分かっているのは辛抱強いという事、それにもの凄く賢しこそう) 理由としてはなんというか温和そうで気品があるし、ベラベラ余計な事を喋ったりしないから。 更には一国の王女となると、権力持ちになり多少なりとも気が大きくなるもの。 が、この方からはそんな気配は微塵とも感じとれないのだ。 ちなみに王女のラグシカの姓、このイッカ国の弱小貴族らしいので事前に耳に入れておいた政略結婚説は濃厚である。(この方、もしかしたら誰か別に好きな人がいるんじゃ?) というのも、やや悲壮感漂う雰囲気がアレニー王妃から見え隠れしている。(小次狼さんはどう思う?) 私は、出入口付近で静かに立ったまま佇んでいる小次狼さんに、静かに秘密のジェスチャーとアイコンタクトを送る。 すると、小次狼さんはそうだと言わんばかりに深く頷く。 ちな、今回は小次狼さんは私のサポート役なんで、見張りも含めて出入口付近に待機して貰っているわけです。 これらの役割なんだけど会話の相性次第で当然変わるわけです、ハイ。「あ、では頼まれていたアクセサリーをお渡ししたいのですが、よろしいでしょうか?」 「ああ、これは気が付かなくて申し訳ない。えっと、出来たら詳しい説明を含めよろしくお願いしたいかな」「ええ、かしこまりました……」 私は営業スマイルと共に軽く会釈し、懐から取り出した宝石入れの装飾小箱をテーブルにそっと置く。 対してラデーニ王子も説明を聞く為に、私の対面に移動し腰かける。「ええっ! なにこれ……。凄い……」 すると驚いた事に、今まで反応が薄かったアレニー王妃が急ぎ足でこちらに向い、ラデーニ王子の横に腰かけたのだ。(ええ? なにこの反応? うーん、ま、まあ女性だからね?) うっとりとした恍惚の表情で宝石入れの装飾小箱を見つめるアレニー王妃……。 ちなみにこの宝石入れの小箱、片手で掴める大きさでかつ金の装飾が施さ
数分後、私達は仮面を外し、木扉のアーチ扉前に深呼吸をしながら立っていた。『木扉のアーチ扉に生花が飾られているところが王子達の控室です』 なるほど、執事から聞いた内容からして、ピンクやイエローなどの花々が飾られているこの部屋で間違いなさそうだ。 私は若干汗で滲んだ手で扉を軽くノックし中に入る。 すると、真正面には金髪貴公子の立派な肖像画が、床は真紅の絨毯がひかれ、その上には木製の装飾丸テーブルと真紅のソファーがあるなど、少しこじゃれた感じの小部屋になっていた。「すいません、客室での対応になりまして。初めまして私の名はイッカ=ラデーニ! 隣にいるのが王妃になるラグシカ=アレニーになります」(ああ、それで……。領主の部屋にしては大人しいと思ったのよね) そう、祝いの部屋の様な飾り気があるものはほとんどないのだ。 ソファーから立ち上がり軽くこちらに対し一礼し、こちらに優雅に歩み寄って来る御仁をよく見る私。 ショートヘヤの整った金髪に長身のスラリとした体形が純白の装飾コタルディの上からでも分る。 更にはシャープな眉と端正な顔立ち、更にはこちらを見つめる憂いを帯びたブルーの瞳に艶のある白い肌。 第一印象から見て、絵に描いたような利発そうな若き王子様かなと。 よく見ると、後ろの肖像画はまんまこの王子のものだった。 で、ソファーに大人しく座っているのはきっと婚姻する王妃、即ち花嫁だろう。 白い装飾ドレスにそこからでも体のラインが分る華奢な体つき。 ロングヘアの金髪に、やや丸みを帯びた可愛らしい顔立ちにたれ目のぱっちりとした大きな瞳。 申し訳なさそうにこちらを見つめるエメラルドグリーンの瞳からは、彼女の繊細さが感じ取れ優しい方なのが私には理解出来た。 私は営業モードに素早くスイッチを切り替え、少しの情報から性格などを予想していく。 そう、楽しむことは勿論大事だけど仕事はきっちりやるのがプロというもの。「あ、いえいえお構いなく。私達は対応していただければ正直どこでもかまいませんので!」 凛と答える私に対し、隣で静かに頷く小次狼さん。「今日は快晴だし、いい式日和になりそうですね」「ええ、本当に!」 私の会話に対し、少し顔がほころぶ第一王子。 対して後ろに控える王妃様は相変わらずのご様子。 なお、この方は第一王子であり、仕事を依頼してき
そう、私は冷静とも恐怖ともとれる感情に支配されながら、意識が次第に薄れていくのを感じていたのだ。「……ということがあり、後はやる事はやったけど組織の変革は叶わなかったので、抜けて現在に至るってわけ」 私の過去の経緯を静かに聞いていた小次狼さんは一息置いたのち、自身の手に持っていたグラスに注がれた白ワインをぐいっと飲み干す。「……そうじゃったか。が、その話が本当なら嬢ちゃんもバンバイヤになっているはずでは?」「そこなんだけどね。私の場合エルフの中でも特異体質だったみたいなんで、今のところ髪の毛の色が銀から紫に変色しただけなんだよね」 実際に今こうして真昼間の中に太陽の光をおもいっきり浴びれてるし、そもそも孤島ブリガンに漂流した時も当然海水に浸かってるてたしね。 私は霧やコウモリに変身出来ないし、非力のままだ。 だからか他のバンパイヤと違って、私は血を飲む必要もないし普通に食事して事足りている。(なんというかその、私ってエルフとしてもどうしようもなく欠陥だらけなんだよね) 「おそらくだけど、私の場合魔法が使えない事が起因していると考えてるのよね」「なるほど、特異体質による魔法や呪いの遮断か」 再び、私自身の空いたグラスに白ワインのおかわりを注ぎつつ頷く私。 「そもそもバンバイヤって何?」って話になるけど、この世界では「暗黒神の呪いみたいなもの」って聞くし、正解はバンパイヤの始祖かパンパンヤに詳しい人に聞くしかないかなって思っているのよね。(ま、正直今はどうでもいいかな) それはさておき、小次狼さんにも秘密にしているが、実は私成長が15歳から止まったまんまだ。(元々エルフ自体長寿なんで、気づきにくい内容ではあるんだけどね……) 更には、何故か他人の言っている内容が嘘か本当か分るようになった。(おそらく長から噛まれて得た能力だとは思うけど……) なんにせよ、エルフとして欠陥だらけだった私はこれらの事を「長所が増えた」とポジティブにとって生き抜いてきた。 で、話を過去の話に戻すが、色々とイレギュラーだった私は幸か不幸かその後も長に気に入られ、結果組織のナンバー2として君臨することが出来た。(結局組織の内容は長が変わらない限り変えられなかったので、断念して抜けちゃったんだけどね) 組織をある程度自由に動かせ【世界をまたにかけ
ダジリン島……。 私達が現在住んでいるブリガンと対極に位置する島であり、世界の北西に位置するもう一つの孤島であった。 ブリガンと違うのは全体的に温暖な気候であったため、海域での海賊とのいざこざが多かったという事。 悲しい事に、歴史上恵まれた大地には争いごとは絶えない。 その為、幸か不幸か争いごとに強い一族が必然に王として君臨することになる。 これがダジリン島王家が世界最強の海軍を持つ所以であった。 また、人族の王はダジリン島に住まうエルフ達とも同盟を結んでいた。 理由は現状味方をつけないと、人だけではやっていけないと聡い人族の王は理解していたからだ。 結果その聡いダジリン一族が島を統治した関係で、この島の名前はダジリン島と命名される。 なんでも私達エルフはこのダジリン島の豊かな森林を拠点として暮らしており、無益な殺生はしないとか肉は食べない堅物とか聞いたことがある。(ちなみに私は生粋の森林育ちでは無いから肉も魚も大好物です) 話をエターナルアザーに変えるが、組織の長はなんとあの伝説のバンパイヤだ。 ちなみにバンパイヤとは吸血鬼やドラキュラという別名もあり、人の生き血をすすりコウモリなどに変身する超強い不死の異形生物の事だ。 走る速さも狼並み、鉄の棒も軽く一ひねりできる怪力を持ち、モンスターヒエラルキーの中でも頂点に近い存在らしい。 ただし、太陽の光や聖なる十字架、聖水更には水に弱く、何故かニンニクも駄目らしい(謎)。 で、このバンパイヤ、何千年という古い歴史の中でこのダジリン王家との戦争に敗北した一族、つまり元は人であったという噂も聞く。 何はともあれ、そのダジリン島から少し離れた更に小さな孤島に【エターナルアザー】の居城はあった。 私がこの居城に連れてこられたのは、さらわれたとも捨てられていたとも聞くが真相は定かでない。 なにしろ私は生みの親を見たことが無いのだから。 ただ、理解出来ていたのはこの組織での生活はそれなりに充実していたという事。 で、周囲はもれなく組織の関係者だし、私が理解しているのは「組織の長の言う事は絶対だ」という事で、「長に気に入られるためには、金銀財宝に対する目利きやそれなりの戦闘能力が必要」だった。 そう、その理由は私達の組織【エターナルアザー】は世界を相手にする怪盗集団だったからだ。 アジ
真っ赤な情熱的なドレスを身にまとった煌びやかな貴婦人をブルーの燕尾服を纏ったスタイリッシュな紳士がエスコートする場面などなど……。 よく見ると大半の方々がそれぞれお気に入りの仮面をつけているのが散見されていた。 ということで、私達もそれに習い各自用意していた装飾仮面を懐から取り出し、静かに身に纏う。 ちなみに小次狼さんは龍を模した仮面を、私は右寄りに赤薔薇の飾りがついたベネチアンマスクを身にまとった。 それぞれ昔のコードネームを模しているので、それなりに意味はあり、小次狼さんは【禅国の雷龍】、私は【レッドニードル】だったりする。 てなわけで、準備が整った私達は紳士淑女それぞれが片手にワイングラスを持ち優雅にざわつく会場内を颯爽と歩いて行く。 そう、まるで優雅なワルツを踊るように軽やかに……ね。 え? 「何故場慣れしてるか」って? そりゃ、わたくし昔怪盗業をやっていた身なので、昼間は堂々とこんな感じで現地の下見とかしてましたからね……。(もうかれこれ百年以上も昔の話だけどね……。私、なんせ長寿のエルフなんで……ええ) 隣を歩いている小次狼さんも忍びの元統領だし、威風堂々としてるもんです。(よくよく考えると、私と小次狼さんって元裏家業のツートップなのよね) 今は孤島でのんびりモフモフスローライフで、花屋と魔石商やらせていただいてますが。 それは兎も角、今は少しの運動と頭を使ったからか丁度小腹が空いている。 ということで、私達も白テーブルに置かれているとても美味しそうなワインとコックが運んできた出来立ての料理を食べていく。「あ、この貝のパスタとても美味しい!」「そうじゃな、ここは海辺近くだし、川も近くに流れているしの。イッカ首都は海産物や川辺の美味しい物が食べられる場所で有名じゃしのお」「芸術の国であり、海産物料理が美味しい国か……。なんともオシャレな国……」「そうじゃの、だからこそ戦争の歴史が長くはあるの……」「栄華の頂点に争いの歴史あり……か」(それが嫌だから私は組織を抜けたのよね……) 私達は見晴らしの良い城の最上階から見下ろした海辺や草原などの極上の風景をつまみに、美味しい白ワインを飲み干していく。 そして思うのだ、だからこそ今は真っ当に生きたいと思い、コツコツとこの仕事を私は頑張っている。(これは言い訳にしか
「彼は嬢ちゃんの知り合いか?」「いえ、全く心当たりがないわ……」 その様子を静かに見守っていた小次狼さんは私にそっと尋ねる。(本当に心当たりが無いのよね。組織の知人の誰にも該当しないし……) ただ、気になるのは先程銀髪の青年が身に着けていたペンダント……。(でも、あれは彼が身に付けているお気に入りの物だし、多分類似品だろうと私は予想してるけど……)「しかし、爽やかな青年じゃったな……」「あ、小次狼さんもそう感じました?」「ああ、嬢ちゃんに近づいてきたのも本当に挨拶目的じゃったしな」「うん、純粋で邪気を感じなかったしね」 お互いの顔を見合わせ、感じた情報交換をしていく私達。「ただ、分っているのは青年の言う通り、城内で再び会うということか」「ええ、そうでしょぅね」 私は先程の青年の笑顔に何故か懐かしさを感じてしまい、そこが妙なもどかしさを感じてしまっていたのだ。「ねえねえ! あの陶磁器色艶が凄かったね!」「ああ、曜変天目のまるで星のような煌めきに宇宙を感じれたしのお……」 私達は目を輝かせ興奮し、語り合いながらラウヌ美術館を出ていく。 そう、『仕事は遊び、遊びは仕事』これが私達の仕事のスタンスであり、これらの話し合いは客観視した仕事としてのインプット後の大事なアウトプット作業の答え合わせなのだ。 こうして私達は目の前の円状の大噴水を眺めながら、しばし語り合った後、晴天の最中真上に昇る太陽を見つめ、イッカ城へ向かうのだ。 それからしばらくして……。「うーん、流石に見事なお城ね……」「ああ、そうじゃな」 私達は目の前に見える、幻想的で超巨大な白亜のお城を眺め思わず感嘆のため息をついてしまう。 というのも今、私達は吊り橋を渡ってやや遠くからイッカ城を眺めているのだが、海辺に建てられたその様子が本当に凄すぎて……。(天気が良いからか、水面に写った白城がまた何とも言えない味がでていて、もうね……) お陰で私達は時間を忘れ、その素晴らしい情景を楽しみながら目的地である城内に辿り着くことになる。「本日はようこそいらっしゃいました。ささ、どうぞ城内へ。婚礼の間には私が案内させていただきます」 流暢な動作と共に私達に礼をするのは、見た目二十歳前後の体格の良い黒服金髪のミドルヘア男性執事。 彼にまぬかれ、私達は大人2人分はあると思
私の問いに対し、小次狼さんは「そうじゃ」と言わんばかりに静かに首を縦に振る。 それから月日が流れ、数か月後のこと……。 私と小次狼さんはイッカ国ご用達の豪華王族船に乗り、イッカ国都市にある城内入り口に来ていた。 船首に装飾された純銀のサーベルタイガーヘッドが陽光を浴び光り輝く様はとても凛々しく思える。「嬢ちゃん、足元に気を付けてな?」「うん! ありがとう!」 私達は優雅な動作でその船から降り、城の入り口の門まで軽やかに歩いていく。 だからか涼し気な潮風に揺られ、私の薄紫の髪の毛と白いドレスのスカートが静かになびく……。 ちな、隣にいる小次狼さんは今日は灰色のコタルディに茶色の革靴を履き、ビシッときめこんでいる。(……うーん、天気がいいし、歩いていても潮風が気持ちいい) そんな事を考えながら、ゆっくりと周囲を見渡していく私。 このイッカ国はガリアス大陸3強国の中でも、芸術の国と言われる程オシャレな場所なのだ。 そのせいか、実際に城下町のいたるところに様々な銅像が散見される。「へー……ここが噂のアスティス城ね……」 そう、この城の入り口には存在感のある巨大な左右の門があり、それを支柱としたこれまた巨大な銅像対になって立っていた! それはこの国のシンボルであるホワイトタイガーであった。 口を大きく開き、獰猛で鋭利な牙を向きだして威嚇しているその様は、まるで城を護衛する生きた門番のように見えた。「……ねえねえ、あの像なんか今にも襲い掛かってきそうじゃない?」 私はそのあまりの迫力に、思わず少し身構えてしまう。「ふむ、そうじゃのお……。一説によると、あのホワイトタイガーはこの国に危機が訪れた時、生きた守護者となり国を救うらしいからの……」「えっ……! そうなんだ……」「はるか昔に西側の隣接した武術のリャン国がこの城に攻めてきた時に城を守護して滅亡から免れた逸話があるらしいしの……」「ええっ……。その話を聞いた後だと、この門凄く通りにくいんですけど……」 私は思わず少し後ずさりしてしまう。「はっはっはっ……。害をなさない者には襲ってこないから安心じゃよ! レイシャ嬢も案外臆病じゃな?」「いや、まあ……。ホラ、私しばらくの間、孤島に引きこもってたし久しぶりの海外だしねえ?」 私は肩をすくませ、少しおどけてみせる。「冗談じ
丸みを帯びた濃ゆい紅色にとても秘めやかで可憐な6条のシルキーライン……⁈「ま、まるで、スタールビーみたい……⁈」 それに鳩の血のように鮮やかな濃い赤色……? それは紫系やピンク系の赤色を呈し、柔らかな光沢を見せている。 さらには石の内部からの輝きが強く、鮮やかなテリを見せている至高の一品……。「凄い! まるでピジョンブラッドのよう……」 私はあまりの感動に目を輝かせ、呆然と立ち尽くし、暫く言葉を失ってしまう。「はっはっは、どうやらこちらもご満足していただいたようじゃの? しかもその魔石は非加熱の天然物じゃよ? どうじゃ?」(ど、どうじゃと言われても……) ほう……と、感嘆のため息が出ているのが自分でも分る。 なにせ二つともカットの仕上げが済んでいる状態にもかかわらず、20カラット以上ある超一級の極上品なのだから。(ううん! いけない、これを私が装飾するのよね) ……私は落ち着きを取り戻す為に大きく深呼吸し、いつものように自分の胸のペンダントに目をやる。「……失われた国宝と言われる、『ガリウスクィーンブラッド』か」 小次狼さんは私のペンダントを見て、ぼそりと呟く。 ガリウスクィーンブラッドとは、宝石の名の通り、ガリウス大陸産のクィーンブラッドの事である。 更に細かく説明すると、ガリウス大陸がまだ3つの国に分かれておらず、世界を統一していた最盛期の頃に国の王女が即位した印として身に着けていたことからその名前が付いたと言われている。(同じピジョンブラッドの中でもさらに、その頂点に君臨する代物なんだよね) 「確か、対となる国宝『ガリウスキングブラッド』もあるはずじゃが……」「…