そんなわけで私とマーガレットはテラスから移動し、私の花屋の入り口に移動する。
マーガレットをよく見ると、真上の看板をじっと見つめているではないか。
その木目模様の看板には、『エターナル』と紫色のペンキで描かれていた。
そこから少し視線を斜めに傾けると、この木造りの建物が二階建てであることが理解出来る。
(そう見ての通り、一階は花屋。二階が私の住まいなんだよね)
そんな事を考えながら空を見上げると、太陽が真上で眩しく輝いており、丁度お昼の時間になっていることが分かる。
私は木製のドアノブに手をあて、「私の花屋エターナルへ、ようこそ!」と彼女を建物の中に招き入れる。
「うん、ありがとうお姉ちゃん!」
部屋の中に入ったその瞬間、爽快な香りがふわっと立ち込める。
「うわあ……。リフレッシュできるいい香り!」
それは入り口に置いてあったハーブの香りであった。
「そうね、お客様にはリラックスしてもらわないといけないからね!」
そう、これは私なりのちょっとしたこだわりと気遣い。
「うん、ありがとう。今日も色々見させてね、レイシャ!」
「はいはい、聞きたいことがあったら遠慮なく言ってね!」
マーガレットは「はーい!」と、元気よく小走りし、室内に置いてある植物を物色していく。
その様子はまるでリスなどの小動物に類似しており、その可愛らしさに思わず私の頬はにやけ緩んでしまう。
「ね、このおへや、太陽の光がいっぱいであったかいね!」
「そうね、光が沢山入るように窓口を長くしてるからかな?」
実はそれだけではなく、魔石を使ったマジックアイテムで各小部屋ごとに植物に最適な温度調整を加えていたりする。
(そう、マジックアイテムは凄い便利なアイテムなんだよね)
あ、そうそう! 話は変わるんだけど、「私が何故花屋をしてるのか?」というと、「趣味と実益そして、今までの経験を兼ねてやりたかった事」だから!
それにね……。
「う、うわあ……。何これ綺麗……!」
マーガレットが感嘆を漏らして見ている物。
それは『真紅に淡く光輝く、子供の握りこぶし大ほどある大きさの結晶のような花』であった。
そう、この魔石で出来た花弁は通称『ブリガンレイン』と呼ばれ、不思議な事にその花弁らも全て真紅の魔石で出来ていた。
この『ブリガンレイン』は世界でも希少な奇跡のマナの結晶体でもあり、私の主な収入源になっていたりする。
私がここブリガンに流れ着いた数年後のある日。
今住んでいる場所の割と近くで偶然発見できたのだ。
(深夜に光り輝くそれを偶然発見した時は、目を疑ったわ……。昔いた組織ですら、『魔石の花』とか眉唾ものだったしね)
で、この稀有な花はここブリガンでしか生息出来ない代物らしく、「この世界の消えた神々に関係している」んだとか、「火山地帯だから」だとか、色んな諸説が流れている。
が、その理由については残念ながらまだ解明されていないのである。
「ねえねえ、お姉ちゃん! この花おいくら?」
無垢な瞳を輝かせ、私の顔をひょいと覗き込むマーガレット。
「う、うーん、そうね……?」
(流石にそれ一つで、今建っているこの花屋が数十件くらいは余裕で買えるとか言えないし……。けれど、実はこの花を見つけれたのは彼女のお陰でもあったしね……)
というのも、マーガレットの母親が亡くなったその日、私が彼女の母親を助けられず嘆いていた帰宅途中に偶然発見したものだったからだ。
しかも、此処に漂流した私を極寒の海から救い出してくれたのは漁師だったマーガレットの父親なのだ。
「……ねえ、マーガレット? ……その花欲しい?」
「うん!」
間髪入れず、元気よく頷くマーガレット。
(うん、どうやら彼女の決心は固いようだし、なら仕方ないか……)
「じゃ、それあげるわ! 私からのシスターへの誕生日プレゼントということでね!」
「え? いいの⁈」
「いいのよ! でね、後日その花を持って私の所に来るように!」
(じゃないとアクセサリーとして加工出来ないからね)
「わーい、ありがとうお姉ちゃん! 大好き!」
嬉しかったのか、彼女は私の足元に抱き着いてきますが……。
「……ンメェー!」
外から何かを訴えるような悲痛な鳴き声が聴こえてきた。
「あ、いけない! モコのことすっかり忘れてた!」
マーガレットは外のテラスに向かって元気よく走って行き、私もそれに習う。
ちなみに『モコ』とは彼女が世話している可愛い子羊のことだ。
ちょいと話がそれるんだけど、実はここブリガンで羊毛は冬着の材料になるため必需品となっていたりする。
(だからマーガレットのいる孤児院では実益を兼ねて羊を飼っているんだよね)
なおその他の用途に、乳、肉ラム・マトン、それを加工したチーズなどがある。
またまた話は逸れますが、私は柔らかくクセの無いラム肉の串焼きが好物なんですよね。
(けど、マーガレットの前ではその話は当然禁句だし、内緒!)
モコはそんな私の考えを知らずに、すっかりテラス周辺の雑草を食べつくし、ご満悦な表情をしている。
これには私も思わずニッコリ!
「モコえらいえらい!」
(うん、確かにえらいえらい!)
マーガレットはモコのモコモコした柔らかそうな体毛を両腕で撫で繰り回す。
「ンンメェー!」
モコはその愛情を感じて取っているのか、私には何だかとても嬉しそうに見えてしまう。
だからか私も、ついつられてモコの体毛を撫でまわしてしまう。
(うわあ……。もこサラで、とってもふわっふわっで、それになんて温かい……)
この温かい日差しの中、この魅力的な感触になんだかほわほわしてしまう私でした。
そんなこんなで、しばらく私達はモフモフタイムを満喫し、バケットに入っている料理を一緒にご馳走になることにした。
暫くして、二人でテラスにある椅子に座り、白丸のテーブルにバケットを置く。
中を開くと、なんと中身はふわふわのサンドイッチ!
(うーん、これはとても美味しそう!)
駆け足で2階に上がり、取ってきた蜂蜜レモン水ととても相性が良さそうである。
私達は「いただきまーす!」の掛け声と共に、そのサンドイッチを元気よく口に入れる。
……柔らかいふわふわとしたパンの食感。
それに合わせるように魚のふわふわとした食感と噛むとホロホロと崩れ、ホワイトソースの甘い風味が口の中に広がるこの感じ……。
(これは、タラのホイル焼きだ!)
「美味しーい!」
「ね!」
「メェー!」
私達はその上手さに思わず夢中でサンドイッチを食べていく。
(流石シスターリン、料理がお上手みんなのお母さんだ……。それに白ワインととってもあいそう)
けど、流石にお昼だし、マーガレットもいるので私はそれを断念した。
で、あまりの美味しさに私達はあっという間に料理を平らげてしまい、食後にスコッティー島名産の本場の紅茶とクッキーを食べながら楽しくおしゃべりをし、スローライフを満喫していくのでした。
「あ、ところでシスターリンは、明日でいくつになるんだっけ?」
「んー……20歳!」
「メェー!」
「……まだ若いわねえ……」
「うん! リンおねえちゃんはもてるからねえ……。 多分明日も村の男の人達がプレゼントを沢山持ってくるよ」
(ま、まあ、料理も上手いし、気が利くし、器量も良しだしねえ……)
「あらー……。シスターはそろそろ身を固める気はないのかしら?」
「んー……。リンおねえちゃんは相変わらず、『この身は神に捧げます』の一点張りなんだよねー」
「メェー!」
私はマーガレットの言葉に苦笑しながら、紅茶を口元にそっと運ぶ。
「……頑固ねー」
「そうだねー……。でも、私達としてはそうなったら、お母さんが取られるみたいな気がして複雑なんだよね」
「……メェー……」
マーガレットはその複雑な気持ちをぶつけるかのごとく、サクサクと音をたて、クッキーを食べていく。
(まあ、それもそうよねえ……)
「で、レイシャおねえちゃんは?」
ニシシと笑い意地悪な顔で私を見つめるマーガレット。
(くっ、痛いところをついて来る。というかね、思考がおませさんすぎ……)
かくなる上は……。
「……め、めえー?」
私は目を細め、迫真の物まねをする。
「!こ、こらー、モコの真似して誤魔化そうたって、駄目だからねっ!」
「メッメエエエエー!」
2人いや、一人と一匹から抗議を受ける私。
(うう、許されなかったようだ……)
「わっ、私は……」
私は胸に付けているペンダントに目を向け、それをそっと握りしめる……。
(私はあの日彼と決別したんだけど……。でも、まだ気持ちは……まだ……)
私のその様子を見て、何かを察したマーガレットは静かに紅茶を飲む……。
「……大丈夫レイシャおねえちゃんなら、きっといい人が見つかるよ」
「メェー!」
ドヤ顔した五歳児と子羊に慰なぐさめられる私……。
(うう、複雑な気分……)
……そんなこんなで、しばらくして。
「じゃーねー、お花ありがとー! また来るねー」
「ンメェ――――――!」
ぶんぶんと元気よく手を振り、子羊のモコと共に元気よく本島の教会へ帰っていくマーガレット。
「ふふ、またね!」
私も元気な彼女につられて、思わず手を振ってしまう。
往復船に乗った彼女達が見えなくなるまで、私は手を振り続けた。
そう、蒸気船の煙が見えなくなるまで……。
……そんなこんなで数か月がたったある日、ここはイハールの屋敷のとある作業部屋。 あきらかに私の作業部屋よりも広くいろんな道具が揃っているこの場所は、今では私達の新しい作業部屋になっていた。 木目の作業机の上には片手ハンマーやピンセント、宝石や魔石を研磨する道具などが置かれているのが散見される。「クロウ、これどう?」「うーん、形はいいですけどあまり魔力は含まれてませんね……。明らかに2級品の魔石です」 クロウは残念と言わんばかりに深いため息をつく。「うーん、じゃ、次これは?」 作業エプロンを着た私とクロウは仲良く横並びに座り、魔石の仕分け作業を黙々とこなしている最中だったりする。「失礼します!」「嬢ちゃん達帰ったぞい!」 そんな最中、部屋に響き渡るはドアを開けし、聞き慣れし2名の声!「待ってました!」「2人ともいいの取れました?」「ほっほっほ!」「ふふ……」 不敵な笑いを浮かべながら、背に背負っていた大きめのリュックをえいやっと地面におろす小次狼さんとドラグネオン。「ほれ! どうじゃ!」 小次狼さん達がリユックから取り出した握りこぶし大の魔石の原石達。 形は歪であるものの、それはまるで太陽の如く真っ赤に輝いていたのだ!「な、なんて、す、凄い量のマナ……!」 クロウは感激のあまり思わず席を立ちあがり、目を輝かせている模様。「立派なもんじゃろ? それらはドラグネオン殿が全て探知してくれたものなんじゃよ」「へ、へえええ……?」 私は真紅に輝くそれらを値踏みしながら、どんな細工品にしようか頭を巡らせていた。「そっか、ドラグネオンは雷のマナの扱いにに長けているから! 体力もありますし、一流の採掘屋として活躍できてるじゃないですか! 凄いです!」「そ、そうなのだが私
……という事で、それから数時間後。 ここは例のブリガンの肉料理屋さん。「いやあ、あの時の小次狼殿の刀技は見事でしたな……」「いやいや、ドラグネオン殿の剣技こそ見事なものでしたぞ!」 それぞれ服装を整えた私達は、各自好物の肉を美味しくいただきながら木椅子に腰かけ、談話していた。「まあ、なにはともあれめでたしよね……」「そうじゃな」「ですね……」「うむ」 私達は各自ビールを飲み干し、そっとテーブルにマグカップ置く。「あっ! ところでイハールさんの件は?」「ああ、それはイミテーションブルーが次の満月に『魂の入れ替えの儀式』がレクチャーしてくれるらいよ?」「な、なるほど! 例の隠し部屋の本にもそれらしきものが色々ありましたね!」 クロウは満面の笑みを浮かべ、コクコクと頷いてますが……。「クロウ、やはり貴方……」「……え、ち、違いますよ? そ、そんなんじゃないんですって!」 クロウはその可愛らしい顔を赤み肉より真っ赤にし、目を躍らせ慌てふためいているが……。(なんというかその、分かりやすいよね……) クロウの場合、仕事でも繋がりが深かったし色々惹かれるところがあったんでしょう。「……ね、ね! クロウは青年のどんなところに惹かれたの?」 私はクロウの顔を覗き込き、すっかり赤くなっているその頬をツンツンとつついてみる。「ち、ちがっ! あ、そ、それよりもリッチー=アガンドラがいなくなった今、組織はどうしましょうか?」「え? そりゃ、私はもう関係者ではないんだし、貴方達上位幹部が好きに決めたらいいんじゃない?」「……そうはいかない。と
「う、うわあああああああああああああ……! い、嫌だっ! 我はまだ死っ……」 リッチー=アガンドラはあっという間に燃え上がり、たまらず絶叫を上げのたうちまわっていますが……?「え、ええっ! ち、ちょっと本当に大丈夫なのこれ?」 そんな私の心配をよそに、紅蓮の炎が消えてなくなったそこには仰向けに倒れているブラッド青年の姿が見えた。『な、大丈夫だろ? ユグドラのマナがフェニックスの力を借りてリッチー=アガンドラの魂を浄化しただけだしな』 なるほど、確かに何故か青年の服は燃えていないし、これには納得せざるを得ない。(それはそうとして、問題はここからどうやって逃げ出すかよね……) というのも、リッチー=アガンドラを滅した事により、奴の作り出した虚実空間から現実世界に戻ってこれたのはいい。 けど問題はここがエターナルアザーの本物の訓練部屋であるという事実。 早い話、奴の部下が大量にいるだろうし、まだ油断が出来ない状態であるからだ。『なあに大丈夫、今の君なら私を通してまだ魔法が使える状態にある。それがどういう事が聡い君なら分るよね?』『あっ! なるほど……!』 て事で、謎の力が満ちている私はブラッド青年を軽く背負う。『じゃ、後の詠唱はお願いね!』『心得た』 再び私の体を借りたイミテーションブルーはレッドニードルに残ったマナを使用し、高速詠唱テレポートを唱え、あっという間にブラッド青年の部屋に無事舞い戻る事になる。「あ、きたきた! やっぱり無事でしたね!」 意識と視界が戻ると同時に、聞き慣れた元気な声が正面から聞こえてくる。 彼女は人懐っこいワン公のような笑みを浮かべ、私に向かって歩んできた。 大きな垂れ目に流れるような黒毛、うん、間違いなくクロウだろう。「ふむ、流石嬢ちゃんとと言いたいとこじゃが、儂の方が早かったの?」
『これで色んな準備は整った。後は私が言う通りにするんだレイシャ』『え、私が?』『そう、これでまたレッドニードルに血液を捧げれるだろ?』 『……あ、ああ、なるほど!』 そんな会話をしている間にリッチー=アガンドラはなにやら高速詠唱を唱えているが?「う、ううっ! な、何故だっ! 何故私の呪文が発動しない? ま、まさか? 今の血を吸ったのは……」「ご名答、なんせお前は転移魔法が使えるからな。血を吸うついでに少しマナの回路をいじって呪文の発動を封印させてもらった!」「く、くそっ! くそおおおっ!」 悔しさのあまりリッチー=アガンドラは己の両手の拳を力強く握りしめ、声を張り上げ叫ぶ!(あ、そっか! 奴に逃げられたらブラッド青年の体を取り戻せないもんね) 流石長、一手で相手の複数の行動を制限し、かつこちらに凄い有利な状況を作ったし、やる事が凄い。 で、体の主導権が私に戻ってきたので、早速だけど早々に決めさせていただく!「私の血を吸いなさいレッドニードル!」 私の言葉に反応し、胸元のペンダントは真紅の輝きを放つ! で、いつものように手に持っていたレッドニードルの柄の部分から、まるでバラのツタのようなものが発生し、それらは蠢きながら私の腕に巻き付いていく!「つ……!」 分かってはいるけど相変わらずこの感触と痛みには慣れない。 『で、ここからどうするの長?』『これで君が呪文を使える状況は整った! 後は私の言葉を追って呪文を詠唱してくれ!』『うん、分ったわ!』『聖なる大樹よ。我が声に応え、そのマナをこのレッドニードルに納めたまえ!』 私はレッドニードルを自身の胸元にそっと携え、イミテーションブルーの後追い詠唱を始める。 「聖なる大樹よ。我が声に応え、そのマナをこのレッドニードルに納めたまえ!」 すると私の声に応え、不思議な事にレッドニードルの刀身が鈍
「クククク、どうやら術が完成したようだ。どうやらこの勝負、私の勝利のようだ! さらばだレイシャ!」 リッチー=アガンドラは不敵な笑みを浮かべ高笑いをしている。「いでよ絶対零度の支配者にして、氷の女王よ! そなたの力を持ってして我が敵を氷塊と化せ!」 リッチー=アガンドラの額のサークレットから力ある言葉が放たれ、私の目の前に全身氷のマナで覆われた『氷の女王』が顕現する! 見た目は透き通った華麗な氷の貴婦人……。 だが、それはまごうことなき死の代弁者。 その氷の女王は残酷なまでの冷笑を浮かべ、私に向かって静々と歩き静かに『死の息吹』を吹きかけたのだ……。(さ、寒い! いや、そんな感覚すらも生ぬるいこの冷たさ……) 私は遠くなっていく意識の中で、咄嗟に例のメモ紙を懐から取り出し静かに握りしめる!「……ふふ、ふふははは! レイシャよ! 流石に絶対零度の死の息吹の前ではなすすべなしであろう!」 リッチー=アガンドラの嘲笑が響き渡る中、パキリ……と何かが壊れる生々しい音が私には聞こえた気がした。「……ははは、は、はあっ?」 リッチー=アガンドラの嘲笑はピタリと止み、今度は目を大きく見開き驚いている模様。 そう、奴が驚くのも無理もない。 私は肌の表皮が少し凍っただけで、ほほ無傷の状態で何事も無いように立っていたからだ。「ば、ばかな? 何故、何故我の最高の氷魔法を食らってお前は無事でいられるんだ? 貴様っ!」「……それはこれのおかげ」 私は手に持っていたメモ紙を開き、奴にそれを見せる。「女神の姿を形どった銀の指輪っ! しかも虹色の魔石が埋まっているだとっ! ま、まさかそれは……?」「そのまさか、超希少アイテム『身代わりの女神の指輪』よ……
「ふふ、これで良しと……」 よく見ると額に青い魔石のサークレットを身に着けている。 リッチー=アガンドラは無駄を嫌う冷静な軍師タイプ。 だからこの行動にも絶対に意味はあるはず!『長ッ、ちょっとあれは何?』『まずいな……。あれはリッチー=アガンドラの隠し玉の1つ、「零口のサークレット」だ』『ええっ! ど、どんなアイテムなの?』『結論から言うと、呪文を2つ同時詠唱出来るようになる壊れアイテムだ。詳しく説明すると、もう1つの意思を持ったリッチー=アガンドラの口が出来たわけだ』 『ええっ! で、でもそんな神アイテムがあるなら何故はやく使わなかったんだろう?』『あれは希少な消耗アイテムで、奴のお気に入りのコレクションなのだ。あれを使わせたという事はレイシャが奴を追い詰めている証拠さ』『なるほど、ポジティブ思考でいくとそうなるわね! じゃ、そうとわかればトドメを差しにいかないとね!』 私は再び呪文を詠唱していくリッチー=アガンドラに向かって、容赦ない斬撃を繰り出す! ……なるほど、リッチー=アガンドラの周囲を覆う水色に光る魔法防御壁が次第に薄くなってきている!「もう貴方の魔力も尽き欠けているわ! 観念しなさい! リッチー=アガンドラっ!」「く、ぐうっ! 魔法の完成はまだかっ!」 声からもリッチー=アガンドラが狼狽えているのが分る。(そっか、オートで自立して魔法を唱えるアイテムだからリッチー=アガンドラ自体もいつ何の魔法が完成するかわかんないんだ! それに本体は魔法防御で手いっぱいなのかも) となれば、今が絶好の機会っ!「も、燃えよ! レッドニードルっ!」 私はふらつきながらも気合を入れ高らかに叫び、力強くレッドニードルを握りリッチー=アガンドラに斬りかかっていく!(……よくよく考えると、このレッドニードルって不思議よね。そしてこの刀身に宿る炎のエネルギーって、